催涙スプレーは、暴漢や野生動物の顔面に向けて催涙ガスを噴射する事により、対象がひるんだ隙に緊急避難するための護身・防犯グッズです。中には犯罪者集団やテロ集団などを制圧するための強力な催涙スプレー・催涙弾や兵器としての催涙剤もあり、海外では大規模なデモを止めるためや、座り込みをする団体などに使用することもあり、無抵抗な人間に対しての使用がしばしば問題になることもあります。アメリカの警察では、暴れる相手が武器を所持しておらず拳銃や警棒を抜くまでもない場合などに、抵抗抑止の為に用いられます。また、イギリスの警察では、凶悪犯を射殺する強力な特殊部隊を有する一方で、拳銃を所持することなく催涙スプレーを携行して治安維持にあたる警察官も大勢いることで有名です。

催涙スプレーの仕様

一般的に市販されている催涙スプレーのほとんどは「オレオレジン・カプシカム(OC)」というトウガラシスプレーが主成分です。一部クロロアセトフェノンを用いたものや、これら二つの成分を混合したモデルもあります。これらのガスは常温下では主に油状の液体で、スプレー缶から勢いよく噴射されます。特にOCガスは麻薬中毒の状態にある者や泥酔者にも一定の効果があるとされ、またクマ等の野生動物撃退用の物も見られます。護身用具である事から、日本国内でも一般の防犯グッツを扱う商店や通信販売等で入手することが出来ます。登山などをする人がクマ除けとして携帯する催涙スプレーは、アウトドアショップでも購入可能です。小型のライター程度の大きさのものから、大型のものでは小型消化器ほどの大きさの物まで存在しています。また形も、純粋なスプレー缶型以外に取り扱いの容易さや誤射の防止を目的として拳銃型や警棒型の物もあります。これらの形のものは、とっさに取り出した際に、ガスの噴出口が自分の方を向いているといったことによる事故を防ぐほか、外見による威嚇効果も期待できます。また、安全装置がついたものも存在しており、誤射する心配がないので携帯に適しています。

効果

カプサイシンを主成分とすつOCガスは、顔面にスプレーされると皮膚や粘膜にひりひりとした痛みが走り、咳き込んだり涙が止まらなくなるなどといった症状が現れます。クロロアセトフェノンの場合は、目に入ると激しい痛みを感じ、大量に入った場合には一時的に失明する場合もあります。呼吸器に入ると激しくクシャミが出るなどの症状が現れます。小型の物でも5~10秒程度の連続噴射が可能で、至近距離から狙えば0.5~1秒程度の噴射でも激しい咳と鼻水が止まらなくなり、数十分は行動困難な状態になります。暴漢が1、2人程度なら、小型の製品で十分に対応可能で、行きずりの犯行などと言ったケースでは、そのような軽度の反撃でも十分に相手の気勢を削ぎ、威嚇できる可能性が高いといわれています。30~40分程度効果が持続した後、完全に正常な状態に戻るには数時間ほどの時間を要しますが、噴射した相手に失明の危機や後遺症を残すようなことはないとされています。顔面に命中させなくても、大気中に舞い上がった粒子は周囲に漂い吸引してしまうため、たとえ相手がオートバイ用のフルフェイスヘルメットを着用していても、首やベンチレーター付近に吹きつけるだけで一定の効果が見られます。目や鼻・口などの粘膜に付着することで激しい焼けるような痛みを与え、涙や鼻水が止まらなくなりますが、これは性器であっても同じことで、ストリーキングや露出狂が露出した下半身に噴射され、取り押さえられたり撃退された事例も聞かれます。この他、暴漢の逮捕を容易にするために、染料が含まれる製品も多く、噴射された相手が黄橙色に染まる製品も多くあります。これらでは顔面などの効果的な部分に命中しなくても、着衣や皮膚を染色し、たとえ水や石鹸で洗っても簡単に落ちないようになっています。また実際に色は付かないもののUV塗料が含まれていて、ブラックライトで照らすと発光するという製品もあります。

噴射形状

噴射される液剤の飛び方には大きく分けて3種類あります。霧状タイプの物は噴射口から遠くなるほど拡散する飛び方をします。水鉄砲タイプは、遠くまで一直線に飛びます。泡状タイプは泡状の液剤が噴射されます。霧状タイプは、広く拡散するのであまり正確に狙わなくても命中し、目標が多数でも効果的であるという利点がありますが、逆風時は使えず実用使用距離は1m以下となっています。狭い室内では自分も吸い込むことになり、近くにいる人物にも被害がでるという欠点があります。水鉄砲タイプは、逆風時にも安心して使用ができ、狭い室内でも他人に被害が少ないという利点がありますが、遠くの目標には命中させにくいという欠点があります。泡状タイプは、狭い室内での使用時も自分に被害がでにくく、他の点は霧状よりも噴射範囲は狭く、逆風にある程度強いなど、霧状タイプと水鉄砲タイプの中間的な性質となっています。これ以外にも粉末の薬剤を液化炭酸ガスで拡散させる強力なタイプのものも存在します。このタイプは有効射程15mという拳銃並みの射程を誇り、かつて日本国内でも市販されていましたが、隠匿が難しい大型サイズのため一般市民への普及はしておらず、全く例外的な存在といえます。

日頃の防犯意識が大切です。

使用方法

噴射距離は大体2~4メートルですが、危険を察知した時点で、相手に気づかれないように催涙スプレーを手に持ち、すぐに使用可能な状態とします。安全装置があるものは、これも解除しておきましょう。そして実際に襲撃を受けた場合は催涙スプレーを持っている腕を相手のほうに突き出すように伸ばし、可能な限り自分に催涙スプレーがかからないように配慮しつつ、確実に相手の顔面に向けて噴射します。相手がひるんだ隙に逃げ、周囲に助けを求めたり警察に通報して難を逃れましょう。防犯ブザーとの併用も推奨されています。

使用上の注意

噴射される液体は肌に付着すると浸透するため、噴射の後に使用者が目や鼻をこすっても効果が出ることがあるので注意が必要です。また、液剤は化学薬品やスパイスなどと同じく、長期保存によって性質が劣化する可能性があります。さらに圧力缶スプレーは構造上、長期間保管すると圧力低下が起こるため、原則的に各製品には使用期限が設けられています。これは製造から数年程度が一般的です。いざというときに困らないよう、使用期限にも気をつけておく必要があります。

訓練

催涙スプレーの噴射方式や飛距離は製品によって差があるため、実際の使用時に戸惑わずにすむように事前に試し撃ちをする事が望ましいでしょう。ただし、製品によっては噴射が一回限りの使い捨ての製品があったり、一度噴射したものは液体が噴射口で固まってしまい、実際の使用時に噴射できなくなるという危険性もあるので、各商品の説明書を熟読し、噴射後はシャワーでよく洗浄しましょう。

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携帯する際の注意

日本では、催涙スプレーを悪用した異臭騒ぎ等のいたずらや、強盗事件、傷害事件などが度々報道され、問題となっています。2006年4月6日には西日暮里駅で韓国人の武装すり団が駅構内で催涙スプレーを撒き散らし、22人が病院に運ばれる事件が発生し、日本国内に衝撃与え、容疑者の本国である韓国でも報道されました。このような事件が続発したため、日本では司直が厳しく取り締まっています。近年、催涙スプレーを犯罪目的で使用したり、いたずらを犯した者は、刑事と民事の両面から厳重に処罰される傾向にあります。また、操作ミスで誤射した結果として他者にに損害を与えた場合でも、犯罪として処罰されるおそれがあります。有害玩具の一種とみなされることもあり、これにより警察官の職務質問などの際に発見された場合、軽犯罪法違反や迷惑防止条例違反の疑いをかけられ、最悪の場合は現行犯として取締りを受ける場合があります。実際、2007年8月26日未明にズボンのポケットに催涙スプレーを入れていた男性が軽犯罪法違反の容疑で任意同行、書類送検されています。しかし、2009年3月26日、最高裁判所は「被告人には前科がなく、状況から催涙スプレーは防御用と考えられ、所持に正当な理由がある」として罰金9000円とした原判決を破棄し無罪を言い渡し、催涙スプレーの携帯だけでは直ちに違法となるわけではないとの認識を示しました。

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